【本要約】クリエイティブ・マインドセット/デザイン思考は着想にある
あなたは「クリエイティブ」という言葉を聞くとどう感じるでしょうか?
- アーティスト
- グラフィックデザイナー
- 写真家、映像作家、音楽家
なんとなく、自分とは関係のない業界、職種の人たちのような気がします。
クリエイティブという言葉から創作活動を伴う一部の職業カテゴリを連想するかもしれません。
しかし、”クリエイティブである”ということと、職業は関係ありません。
どんな職業でもクリエイティブになれるのです。
今回ご紹介するのは「クリエイティブ・マインドセット〜想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法」(著者:デイヴィッド・ケリー&トム・ケリー/翻訳:千葉敏生)はいかにクリエイティブな働き方を実践するか?そのエッセンスやヒントが沢山つまった名著です。
クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法
クリエイティブ思考と非クリエイティブ思考にはどういう差があるのか?
今日から実践できるクリエイティブ思考になるためのトレーニング方法など、全392ページの中から、僕が特に大切だと感じた部分を要約してみました。
この記事の目次
クリエイティブ思考に必要な3つの領域
クリエイティブ思考には3つの異なる領域をそれぞれ理解する必要があります。
- 技術的実現性…技術的に実現可能かどうか
- 経済的実現性…金銭面で継続可能かどうか(収支が合うか)
- 人間有用性…人間にフォーカスしているかどうか
多くの人はまず、技術的に実現できるかどうかを考えます。
全く新しいサービスや商品を作るとき、必ず技術的に可能かどうかは重視されます。
次に、それができたとして、収支に見合うかどうか。
世界の多くの国では未だに飲料可能な水道管がひかれていません。
水道管を通すより、ウォーターサーバーで安全な水を提供した方が経済的に優れているからです。
そして最後に人間にとって使いやすいかどうかを考えます。
モノやサービスがない時代には技術的実現性と経済実現性だけでも売れたかもしれません。
しかし、モノやサービスが溢れる時代には人間有用性が求められ、クリエイティブ思考においてこの3つの領域が重なったところを発掘していく必要があります。
「自動販売機」は1と2の領域で留まっています。
もし人間にとってより使いやすい物にデザインし直すなら、腰を屈んでペットボトルを取り出すようなデザインにはしないでしょう。
「自動販売機の都合」>「人間」なのです。
ここに新たなイノベーションのヒントがあります。
「コーヒーを飲む体験をデザインし直す」
もしあなたが突然、「コーヒーを飲む体験をデザインし直す」というプロジェクトを任されたらどうしますか?
優秀な人ほど、自身の体験から一瞬で問題解決モードに切り替えるという罠に陥ります。
- 「朝は時間がないから、ボタン一つで淹れたてのコーヒーが飲める装置が良いな」
- 「豆をいちいち買うのは面倒だから、毎月いろいろな豆をサブスクで自動で送ってもらおう」
…etc
これらは自身が普段から感じている問題にフォーカスし、それを第一に考えます。
しかし、デザイン思考で重要なのは広い視野での「着想」にあると著者は述べています。
「着想」とは何か?
着想とは利用者を観察して、自身では思い付かないニーズや欲求、動機を理解することで全く新しいアイディアが思いつくことです。
先に紹介した「コーヒーを飲む体験をデザインし直す」を例に挙げると、「コーヒーを飲む体験」にある課題や問題を発見して解決することが”デザインし直す”とは限らないということです。
「デザインとは課題を解決すること」ではありますが、これが全てではありません。
例えばコーヒーマシーンからコーヒーが淹れられるまでの時間の利用者の行動を観察することで、「コーヒーを待っている時間を何か楽しいものにしよう」など全く思いもよらないアイディアが生まれます。
本書では例として、アイスクリームスプーンをデザインし直すとき、利用者を観察した結果、アイスクリームをすくった最後に、スプーンにこびりついたアイスを舐める人が多いということがわかりました。
そこで、すくうだけではなく、舌触りの良い舐めやすいアイスクリームスプーンを開発しました。
これは対話だけでの顧客インタビューなどからは導きだせない着想です。
誰もすくったスプーンを舐めるなどという恥ずかしいことは言いにくいでしょうし、そもそも顧客自身、ほぼ無意識レベルでやっている行動でそれを認知してない可能性が高いです。
よく「顧客の声を聞くな、顧客は本当に欲しいものは理解していない」という言葉がしばしば商品開発やマーケティングの世界では聞かれます。
iPhoneが発売される以前、iPhoneを具体的にイメージできた一般消費者など誰もいなかったでしょう。
顧客に「共感」する
「共感」とは顧客のところに行き、顧客の要望を聞き出し、望み通りのものを与えることだと誤解している人がいる。だが、普通この戦略はあまりうまくいかない。自分のニーズを表現できるほどの自己認識(言語化)できる人は少ないからだ。世界にまだ存在しない選択肢やアイディアまで答えてくれる人はまずいない。共感とはむしろ、まだ人々がはっきりと表現できない隠れたニーズを理解することだ。
顧客に共感するための3つのアプローチ
見せてもらう
顧客の自宅、職場、行きつけの場所を訪れ、普段使っているもの(スペース、道具など)を見せてもらう。そして普段の使い方や生活をありのまま再現してもらう。
描いてもらう
顧客の思い込みを暴くにうってつけの方法。人は順序立て情報は整理できていないことが多い。書き出すことで、話し手自身も整理される。(図やダイアグラムなども描いてもらう)
5回のなぜで本質に迫る
大抵、最初に答える内容は本質が迫れていない。(顧客自身というよりは、広く一般認知された課題だったりする)最後の最後に絞り出した返答にこそ真の答えが含まれていることが多い。
問題の枠組みを捉え直す
実は問題や課題がまるで見当違いだったということがよくあります。
例えば高い離職率に悩んでいる会社の人事担当者がいたとします。
人事担当者は会社の魅力が薄まっているから人が辞めると考えています。
しかし、その会社はベンチャー企業です。
ベンチャー企業に集まる人はそもそも安定は望んでいません。
3年スパンで転職することを前提として働いています。
離職率が高い=会社の魅力が薄まっているという問題に縛られていると、全く検討違いの施策を実施する可能性があります。
会社の魅力が高まっても、成長できるポジションや環境を提供しても、人は会社を辞めます。
人間関係なのか、他に魅力的な会社からオファーがあったのか、ワークライフバランスをとりたいのか、理由は様々です。
だからこそ、問題の枠組みを捉え直すという思考が有効になります。
問題の枠組みを捉え直す具体的なアプローチ
明白な解決策から離れる
例:効率的なネズミ取り装置を発明するのでなく、ネズミを寄せ付けない方法は何か?
焦点や視点、当事者を変える
例:親から子に、上司から部下に、消費者から生産者に、場所から時間に。
真の問題を突き止める
例:人々は電動ドリルが欲しいのではなく、穴が欲しい。
逆を考える
例:疑問を反転させて考えてみる。購入率を10%改善したい。→購入しない90%の人はなぜ購入しないのだろうか?
計画するよりも行動しよう
パルスニュースという大成功したニュースアプリがあります。
このアプリの成功要因は大きく2つあります。
- 計画をなるべく減らした。
- お金も時間もかけずに作ったプロトタイプを何千回と修正、改善した。
プロジェクトの初期の段階ではどれだけ計画しても使い物にならないことが多いです。
入念な計画はつくらずに開発→β版公開→フィードバック→修正という、いわゆるアジャイル開発が功を奏しました。
ユーザーニーズをいち早く提供するためにはPDCAサイクルよりもアジャイル開発を念頭に行動することが大切かもしれません。
最後に
本書を読んでいて、怖いなぁと思ったのが「知識と行動のギャップ」という章でした。
写真用フィルムメーカー・コダック社は写真市場において100年間にわたり市場を独占していました。
デジタル写真が普及する未来をも予測し、1975年にはデジタルカメラを発明し、世界初のメガピクセルセンサーも開発していた会社です。
経営陣もデジタルに対する知識や情報不足はなかったわけではないにも関わらず、デジタル事業は高リスクと判断され、コダックは歴史の波に消え去っていきました。
「失敗に対する恐怖で金縛りなっていた」
知識や洞察を有効な行動へと変えられなかったのが最大の失敗要因とされています。
これは企業にも一個人にも言えることです。
行動の前に変わろうという強い意思と決意が必要です。
本書では度々、非クリエイティブであると思いこんでいる人に向けて「自分はクリエイティブ思考になる!」と決意することの重要性を説いています。
「なれたら良いな…」ではなく「なる!」
そう思えた日から、身の回りの出来事に対して今まで見過ごしていたような些細なことも感知できるようになるのかもしれません。
続きは本書をぜひ読んでください。